ヘルタースケルター(※若干ネタバレあり)

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2012.7.17 ワーナー・マイカル・シネマズ新百合ヶ丘にて
蜷川実花監督「ヘルタースケルター」

久しぶりにシネコンで映画を観ました。この作品は予告編で知っていましたが、特に観に行きたいとは思っていませんでした。ただ急に映画が観たくなり上映時間が一番近かったのがこの作品だったので観ることにしました。

実際に観てみると期待以上の作品でした。予告編で見どころの大部分を放出してしまい本編を観た後にがっかりさせる映画が多い中、この作品はその点で優れていました。本編には予告編から連想されるレベルを超えた深さがありました。予告編の果たすべき役割が一人でも多くの観客を呼ぶことだとすれば(おそらくそうだと思いますが)、本作のそれは劣っているのかもしれません。しかし映画を売り物としてではなく一つの芸術作品として考えるなら、こちらの方が予告編としてふさわしいのではないでしょうか。

と言ったところで実際映画は売り物じゃないか!と思う方もいらっしゃるでしょう。しかし観客視点で考えてみてください。確かに予告編に見どころを詰めていけば動員を見込めるかもしれません。ただしそれには限度というものがあります。あまりに何でもかんでも出し過ぎてしまうと観客は予告編だけでいいやとなってしまい(極端ではありますが)本編を観に映画館まで来ることがなくなってしまう可能性があります。観客としても予告編>本編の作品より予告編<本編の作品の方が観た後の満足度は高くなるに違いありません。

映画館離れが進んでいる今、作品の質以外に作り手が変えていくべきことは、もしかすると予告編の位置づけなのかもしれません。予告編はあくまで作品の雰囲気を感じてもらうことを目的に置き、映画を観るかどうかの判断基準にはさせないということです。映画の良し悪しは映画館で実際に観てから考えると。無茶な考えかもしれませんが長い目で見れば、予告編で客を呼び期待を裏切り続けるよりはよっぽど良いと思います。ただしそれには作品の質をもっと上げる必要があります。今の状況でこのような形に変えれば、客は倍速で減っていくと思います。作品の質が何より重要であることはおそらく変わりありません。まるで誰かに説教をしているような感じですが、これは自分はこうありたいという宣言的な意味もあります。

さて話は変わりますが、劇中に出てくる20冊以上の雑誌は全て実在の会社に許可を取りロゴを借りて映画用に作られているということです。このことについて蜷川監督はインタビューで「そんなの見ないじゃんと思いつつも…そこはこだわろうと思った」とおっしゃっていますが、僕は見てますと伝えたくなりました。細部にこだわるということはとても大事なことだと思います。観客は見ないだろうからいいという切り捨ては時に作品の質をグッと下げてしまいます。

本作ではこの雑誌に限らず全体的に美術のこだわりを感じました。しかし気になったこともあります。それは終盤の記者会見でテーブルに置かれたマイクです。あのマイクがどう見ても偽物に見える作りで非常に残念でした。ああいったものは実際作りもので構わないのですが、作りものをいかに本物のように見せるかという映画美術の仕事であれはちょっとないなと思いました。マイクがマイクホルダーよりも細く、明らかに不自然な形で取り付けてあるのも気になりました。ただ仮にこのマイクが本物のように再現されていたとして、僕が記者会見のマイクが本物みたいで良かったという感想を持つことはおそらくないです。でもそれでいいのだと思います。物語とは関係のないところで意味もなく気を取られる要素を残しては勿体ないということです。

関係ないといえば、この作品の中で物語とは関係なく面白かったことがいくつかあります。
・監督が雑誌のカメラマンで登場していること。
・渋谷で撮影されていたシーンで一般の方が画面に映り込んでしまい「あっ映っちゃった」という反応をしているカットがあること。
・渋谷駅が移り込んだところでL’Arc~en~Cielのツアーライブ告知がまともに映っていること。
・本作の撮影に使われているレッド・デジタル・シネマカメラ・カンパニーのカメラ「REDONE」が劇中に出てくる”りりこ”主演映画のタイトルとして使われていること。
・監督助手が「宮崎駿」さんであること。(調べたところ宮崎駿(みやざき・しゅん)さんという方でした) などなど

まずこの作品を観ていてため息が出るところはありませんでした。良作だと思います。一見の価値ありです。

ヘルタースケルター
2012年7月14日公開 アスミック・エース エンタテインメント
http://hs-movie.com

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山下 大裕映画監督・DYCエンターテインメント代表

投稿者プロフィール

1992年6月9日生まれ、27歳。福井県敦賀市出身。敦賀高校普通科→日本映画大学映画学部映画学科脚本演出コース1期卒業生。20歳の冬を迎えた2013年、地元敦賀を舞台にした自主製作映画『SNOWGIRL』(62分)を初監督し、2015年には敦賀映画第2弾と銘打ちオール敦賀ロケで『弥生の虹』(74分)を監督。2017年には敦賀市からの依頼を受け観光ショートムービー『いつか、きらめきたくて。』(全四話)の監督や敦賀市市制80周年記念映像『敦賀市 80年のあゆみ』の構成・撮影・編集を務める。18歳の頃から“2020年までに全国公開作を撮る”と公言し日々奮闘中。2017年7月~2018年12月まで本土最南端の鹿児島県南大隅町地域おこし協力隊として映像での地域活性化に力を注ぐ。2019年より再びフリーランスに戻り鹿児島を拠点に10年来の夢を果たすべく奔走中!

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本土最南端の映画監督
DYCエンターテインメント 代表:山下大裕


1992年6月9日生まれ、27歳。福井県敦賀市出身。
敦賀高校普通科→日本映画大学映画学部1期卒業生。

20歳の冬を迎えた2013年、地元敦賀を舞台にした自主製作映画『SNOWGIRL』(62分)を初監督し、2015年には敦賀映画第2弾と銘打ちオール敦賀ロケで『弥生の虹』(74分)を監督。2017年には敦賀市からの依頼を受け観光ショートムービー『いつか、きらめきたくて。』(全四話)の監督や敦賀市市制80周年記念映像『敦賀市 80年のあゆみ』の構成・撮影・編集を務める。18歳の頃から“2020年までに全国公開作を撮る”と公言し日々奮闘中。2017年7月~2018年12月まで本土最南端の鹿児島県南大隅町地域おこし協力隊として映像での地域活性化に力を注ぐ。2019年より再びフリーランスに戻り鹿児島を拠点に10年来の夢を果たすべく奔走中!

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