劇団昴「暗いところで待ち合わせ」
- 2012/1/16
- 舞台の話
2012.1.14 シアターグリーンにて
小説家乙一氏の原作で2006年に映画化もされた「暗いところで待ち合わせ」。大学の授業「映画と演劇」のレポート題材を考えていたところ、ちょうどいいタイミングで本作の上演を知り観に行ってきました。舞台のチケットはいつもだいたい予約しておくのですが問い合わせると前売り完売ということだったので、今回は珍しく当日券狙いで並ぶことに。受付1時間前に会場へ着くと既に2名ほど並び始めていたので急いでその後ろにつき、近くのジュンク堂で買ってきた本作の原作を読みながら時間をつぶします。劇団昴の公演を観るのは今回が初めてです。
開場し中へ入るとなんとも素晴らしいセットが組まれているのです。座席は最前列上手から三番目で角度が少し厳しいところでしたが満足です。駅が重要になってくるこの作品をどう表現するのかと思っていましたが、家の壁紙を取り去って骨組みだけ残すことによってその後ろにしっかり駅のセットが出来上がっていました(言葉では伝わりにくいかもしれませんが)。
そして開演。本作はチェロ奏者坂本弘道氏による生演奏が取り入れられているのですが、それが頭からとてもいい味を出していました。序盤の時点でいい作品になりそうな匂いがぷんぷんしており、実際に見終えてみるととても美しい作品だったと思いました。
この作品、観て本当に良かったと思います。Twitterでも書きましたが僕にとってはここ1年の間に観た舞台の中で最も心に響く作品でした。初めて舞台を観て涙が出ました。こんなことは今までになく自分でも驚きでした。ポイントは2つほどありました。
まず前半でミチルとアキヒロが同級生にいじめられているシーン。これがとてもうまく出来ている上に思いのほか時間が長く観ていられない程辛くなりポロポロと。過大評価しているのでは決してなく、本当に心に穴が開きそうな程切ないシーンでした。
もう1つは同じく前半、父親の葬儀に会場に来た元妻が駅で電車を待っているシーン。現在の娘と学生時代の娘(実際にはあり得ないが本作では同一人物の設定で年齢の違う2人が時折同時に登場している)が遠くに見える母親に向かって「お母さん、お母さん」と大声で叫び続けるところ。これも結構長い間叫んでいる。とても切ない、ポロポロ。
後半ではもう泣きませんでしたが、アキヒロがミチルに寄り添い外の道を歩いていくシーンはとても幻想的で美しかったです。雪の演出がわざとらしくなく好感を持ちました。
また全体の中で複数回に渡って出てきた人々の通勤・通学する様子、あの場面はこの作品の上で結構重要な要素だったと思いました。上から目線の言い方で大変恐縮ですがとても良かったと思います。
映画演出はもちろん舞台演出の方にもかなり興味があるのですが、いつかこのような作品が作れたらいいなと心から思いました。自分で言うのもなんですが普段泣かない人を泣かせるぐらいのものを是非作りたいです。これは映画舞台問わず思いますね。
この作品、舞台で観るからこそいいものなのだとは思うのですが映像でもいいからもう一度でも二度でも観たいと思いました。DVD化してほしいと個人的に思います。
一つ気になるのは僕が劇団昴の役者さんの演技、寺十吾さんの演出、乙一さんの原作、坂本弘道さんの音楽のどれに泣かされたのかということ。もちろん全ての結集によってだとは思うのですが僕は特に何に惹かれたのか。これはこの作品を見ただけでは分かりません。今後劇団昴さんの公演予定もあるようですし、寺十吾さん演出の舞台も3月末にあるとお聞きしました。坂本弘道さんも演奏会を行っており乙一さんも映画を撮られるなどしているとのことですので、今後これらの作品や演奏会にも是非行ってみたいと思います。
劇団昴公演「暗いところで待ち合わせ」関係者の皆様、素敵なひと時をありがとうございました。
Copyright © 映画監督山下大裕の2020年全国公開への道 All rights reserved.